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by abcdokok

私に暇を



 井戸の囲み石の上から腰をあげると、馬屋を目指すことにした。老王の離宮へ向かうためだ。

(須佐乃男様のもとに出向いて、頭を下げよう。いまは心から教えを享受できる気がするし、あの男も、知恵を残す相手を探しているはずだ)

 そして、自分へ最後の問いをした。

(力の掟……意思を継ぐ者が子、か。私はいま、あの男の意思を継ぐ子になろうとしているのか。故郷を滅ぼしたあの男の)

 安曇は、もう一度息を吐く。庭の向こうに見えている馬屋の屋根を見据えると、念じて足を動かした。腿のそばに垂らした拳は一度強く握られて、力が入って指はかたく結ばれた。
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(いこう、あの男のところへ。力の掟とは、些細な確執を捨て去って、大勢(たいせい)を見ろとの教えだ。私は、これまで生きた出雲から逃げたくはない――)





4章、約束の夜 (1)

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 意宇(おう)へ移り住んでひと月が経つと、狭霧は父との約束通りに杵築(きつき)へ戻った。

 数日前に意宇から杵築へ向かった武人がいたので、その日に戻るからとことづてを頼んであったせいか、雲宮の王門のそばには、今か今かと狭霧を待つ女人の姿があった。
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 その女人は狭霧がよく知っている人で、名を恵那(えな)という。いまは亡き母の侍女だった人で、狭霧が幼い頃は、乳母代わりに世話を焼いた人だ。

 恵那は王門の周りをうろうろとしていて、狭霧が乗る馬がやってくるのを見つけるやいなや門をくぐって迎えに出て、細い腕を大きく振った。

「狭霧様、お久しぶりです。まあ、まあまあ、立派になられて――!」

 恵那は母の死後も狭霧の面倒を見ていたが、数年前から、父親の身体の具合が悪いということで故郷の里に戻っていた。

 だから、狭霧が恵那と会うのは、かなり久しぶりのことだった。

「恵那! 父御の病は――」

 懐かしい人を見つけて、狭霧の顔はぱっと明るくなった。

 でも、鞍から飛び降りて、両腕を差し出した恵那と手と手を合わせて、いったん再会の喜びに浸ると、はっとして表情を曇らせた。

 そんな顔をするなとばかりに、恵那はかえって陽気に笑った。

「ええ、父は天にのぼりましたよ。家族みんなに看取られて、私に暇を与えてくださった穴持(なもち)様に、ありがたい、ありがたいと感謝して――。というわけで、恵那は御恩を返しに戻ってまいりましたよ。穴持様からも、あなたにつくようにといわれていますので」

「またわたしのそばにいてくれるの? でも、恵那。実はわたし、いまは意宇に移り住んでいて――」

「ええ、聞きました。意宇くらい、なんです。恵那は、姫様がいくところならどこへでもいきますよ」

 そういって恵那は、いまにも折れそうな細腕で自分の胸をどんと叩いて見せた。




 恵那と隣り合って大路をいきながら、狭霧が目指したのは自分の寝所だった。

 狭霧の寝所は、父、大国主が住まう本宮の東に建つ舘の一角にある。

 久しぶりに自分の居場所へ戻ってみるものの、狭霧は目をしばたかせた。

 必要なものはすべて意宇へ運んでいたので、その寝所からは物がなくなり、殺風景になっているはずだった。それなのに、減ったはずの寝具はむしろ増えていて、髪結い道具も、ひと揃いを仕舞っておける角籠ごと増えていた。それに、見たことのない華やかな壁掛けまでが木の壁に垂れている。そこには、前よりむしろ物が溢れていた。

「ここ、誰かが使ってる?」

 目を丸くする狭霧に、恵那は種明かしを喜ぶように笑った。

「恵那が整えておきました。穴持様から命じられたんですよ。意宇より居心地をよくして、あなたをここに居つかせろって」

 母が生きていた頃から雲宮に仕え
by abcdokok | 2013-09-23 12:25